紛争の内容

1 経営していた企業の倒産、10年以上経過の破産申立てと同時に申立て

本破産者は、都内で経営していたインテリア製品の卸業の企業の代表者です。

10年以上前に事実上倒産しましたが、代表者の自己破産申立にあたり、代理人弁護士のアドバイスに従い法人破産も申し立て、併せて管財人になりました。

2 保有自家用車についての自由財産拡張

本破産者は自家用車を保有しており、その保有を希望していたため、破産手続開始決定を受けて速やかにその車両への任意保険とともに、拡張を相当と意見し、裁判所はそれを認めました。

3 破産者の交通事故受傷による損害賠償請求権の帰属の問題

本破産者は、申立の数年前に交通事故被害を受けており、治療は済んでいましたが、後遺症があり、その認定、それを踏まえての慰謝料額等が未定でした。

申立代理人は、破産者の上記損害賠償請求に関しての代理人には就任していないとのことで、交通事故に関する資料の追加を指示し、準備してもらいました。

後遺症認定についての結果が、転送郵便物で管財人のもとに届きました。

破産者は同認定について異議申し立てをしたいとのことで、この点について、破産者の財産の管理処分権を専属する管財人として、どう対応するか裁判所と協議しました。

裁判所より、異議申立ては破産者に委ねてよいと回答があり、破産者に任せることとなりました。

他方、治療通院期間に応じた慰謝料請求権、後遺障害に応じた慰謝料請求権については、本申立前には、加害者側と示談が整ったりしておらず、確定しておりませんでしたことから、一身専属的権利である慰謝料請求権が未確定である以上、破産財団所属財産に含まれないとして、申立代理人にも連絡し、その他の自由財産拡張申立をなすよう指示しました。

交渉・調停・訴訟などの経過

4 破産者の死亡、破産手続の続行

令和4年11月下旬に、破産者が亡くなった旨の連絡を受けました。

破産手続は、亡くなった破産者の相続財産の破産手続として続行されました。

そして、破産手続中に死亡した破産者の免責手続はありません。

破産者賃借物件の賃貸借契約書に緊急連絡先として実娘の方の連絡先がありましたので、今後の破産手続等の説明をしたいとして、お手紙を差し上げました。

また、破産者賃借物件の管理会社からも、破産管財人宛に連絡が来るようになりました。

破産手続開始決定を受けると、破産管財人は、破産者の財産の管理処分権を専属することになります。

賃借物件の賃借人の地位も管財人が承継することになりますが、敷金返還請求権を自由財産拡張の対象とすることで、同賃借権ないし賃借人の地位も破産者に復帰させるのが通常です。

本件では、敷金ではなく、保証金とあり、それが敷金の趣旨か明確にならないうちに、自由財産拡張申立の対象ともなっておらず、また、破産財団から放棄許可申請をする前に、入居者である破産者が死亡してしまったのです。

この当時の破産財団は、予納金として引き継いだ5万円のみでした。

他方、破産者の死亡により、交通事故の被害者としての損害賠償請求権、特に、慰謝料請求権を破産管財人が引き継ぐことになりました。

いわゆる赤本の基準に従い、算定すると、300万円以上の請求額となりました。

加害者側保険会社と協議し、同保険会社は、慰謝料額については保険会社計算額とし、つまり、管財人からの請求額の9割ならば、示談に応じるが、管財人請求の満額以外譲歩しないというのであれば、訴訟を提起してもらう必要があるとのことでした。

裁判所に、本件破産手続きの可及的早期な手続き進行と、相当額の財団増殖により、配当が見込まれることなどを理由に、破産裁判所に許可申請をし、許可を受け、同保険会社から保険金の支払いを受けました。

5 破産者賃借物件の処理

同物件の管理会社から、破産者の子供たちが全員相続放棄したとの連絡があり、今後の対応のアドバイスを求めてきました。

貸室内の残置動産を引き取ってもらう方法や、それがかなわない場合に裁判を起こすとどうなるのかというものでした。

一般的なアドバイスをさしあげたが、室内の残置動産を移動したいとのことで、相続人の子が保管している鍵を譲り受けたいとのことでしたので、管財人の方から、鍵の保管者に連絡をし、鍵の引渡しを受けました。

保険金が入金され、破産財団も300万円弱となりました。

そこで、破産者賃借物件の賃貸人の管理会社を通じて、賃貸人と示談を交わしました。

賃貸人は、残置動産処分費用の負担と、保証金の組み入れを求め、それ以外の権利は放棄するというものでした。賃借人であった破産者の相続人らは、相続放棄をしているとして、残置動産の引き取りを固辞したため、賃貸人の責任で行う廃棄処分費用の負担を求めたものであり、他方、当管財人も本件賃貸借を解消しうること、財団からの支出も可能な金額であったことから、裁判所の許可を受け、和解しました。

本事例の結末

債権者には、保険会社から受け取った賠償金が主な配当原資として、簡易配当を行いました。

破産手続中の破産者が死亡したため、免責手続は行われません。

本事例に学ぶこと

破産者が交通事故被害者である場合には、その賠償金、特に、慰謝料請求権の破産財団に帰属するかの問題があります。

慰謝料請求権は、一身専属権とされ、その金額が確定する前に、破産手続が開始された場合には、当然には破産管財人の管理処分権が及びません。

今回の事案では、手続中に破産者が死亡するという想定外の進行を見ました。

交通事故の被害者の方が、交通事故の受傷が原因で収入が途絶え、借り入れが増え、結果、破産申立をせざるを得ない場合があります。

この損害賠償請求権をよく見極めて、申立をする必要があります。

このような事情を抱えた方も、ご遠慮なく、当事務所に債務整理をご相談、ご依頼ください。

弁護士 榎本 誉