紛争の内容
依頼者は、2005年にクレジットカードを作成し、インターネットショッピングを利用していました。
趣味の品を購入際に利用し、月額数万円以内にするよう制限していました。
大手メーカーに勤務する会社員であり、また実家暮らしでしたので当初は経済的に余裕がありました。
そして、将来に備えて、資金運用を考え、株式投資、FX投資を始めてもいました。
FXは、損失を出し続けるようになった2020年ころまで行っていました。
1 一人暮らしによる家計のひっ迫や貯蓄の取り崩し
その後、依頼者は一人暮らしを開始しました。賃借の初期費用は預金で賄い、引っ越し先での家財道具のにはクレジットカードを利用しました。それでも総額10万円位だったとのことです。
一人暮らしを始めて間もなく、依頼者は過労がたたり、うつの診断を受け休職しました。その後復職しましたが、再度うつを発症し休職となりました。休職期間中は補償が支給されましたが、この休業補償も使い果たし、貯蓄も取り崩して生活するようになりました。
2 更なる借り増しによる生活費の補填
その後、生活費が不足するとカードローンや消費者金融からも借入を利用するようになりました。
多重債務で生活が厳しい状態でしたが、依頼者の病状は回復せず、やがて借入の限度額に達し、借り増しもできない状態になりました。
3 生活保護の受給、生活の再建
依頼者は生活費にも事欠くようになり、まずは市役所に生活保護の相談に赴きました。
相談の結果、生活保護を受けつつ、復職しながら、生活を立て直すことになりました。
4 法テラスでの債務整理相談、法律援助での破産手続
法テラスで弁護士に相談し、過大な債務については、自己破産することにより、対処することになりました。
会社での勤務形態も考慮してもらい、手続き後はほどなくして仕事に完全に復帰しました。
依頼者は体調は万全といえません。勤務先での仕事も配慮してもらい、過度な残業も控えることで、体調回復に努めました。
交渉・調停・訴訟などの経過
申立準備を整えましたが、フルタイムでの仕事に復職し、家計も十分節約したことから、毎月の給与でも余剰が出、さらに、年2回支給されるボーナス分がさらに貯蓄に回りました。
破産申立て時には、生命保険の解約返戻金が、契約者貸し付けを受けながらも、数十万円あり、また、預金も50万円以上ありました。
そこで、管財人が選任される管財事件となりました。
大手企業勤務で収入も安定していた依頼者は、多くの保険に入っておりましたので、それらのうち、今後の生活に必要不可欠な保険などについては自由財産拡張を求めました。
管財人の意見を踏まえ、裁判所からも許可されました。
本事例の結末
依頼者は、申立て後も時々体調がすぐれないことがあり、また長時間をかけて通勤していることからも、欠勤することもあったそうです。
管財人は、破産申立のほんの数年前まで行っていたFX取引や、キャバクラなどの利用を浪費に類するとしましたが、その後の堅実な家計のやりくりの実現等に鑑み、裁判所の裁量により、免責を許可するのが相当と意見し、裁判所もその通りとしました。
本事例に学ぶこと
本債務者は、生活保護受給者の方ですが、体調の回復度合いを見ながら、復職し、就業時間を調整しました。
将来に備えての資産形成もしていましたが、費消つくしてしまい、生活保護の助けを借りました。
その後、法テラスから援助の決定を受け、自己破産申立に至りました。
管財事件となりましたが、自由財産拡張も認められ、めでたく免責許可となったものです。
弁護士 榎本 誉