紛争の内容

1 多重債務のきっかけ

債務者は、15年ほど前にクレジットカードを作成し、生活費の不足を補うために使用しておりました。

リボ払いも利用し、使い過ぎないように注意していたとのことです。

平成23年以降は、派遣会社に登録し、寿司店のホール係として勤務していました。

債務者は、クレジットカード2枚を利用し、その総額100万円前後となり、リボ払いの月額は合計3万5000円でしたが、それも苦しくなったとのことで、司法書士事務所を通じて、2社で1万5000円にしてもらう債務整理をしました。

この司法書士事務所を通じて、支払い代行もしてもらっていたとのことです。

しかし、平成30年には、派遣先のすし店が倒産し、収入が途絶え、支払い代行資金も用意できない状態になりました。

その後、間もなくして、新型コロナウィルス禍となり、飲食店ホールの仕事への転職も目処が立たなくなりました。支払い代行してもらう資金も全く用立てられなくなりました。

支払い代行をしていた司法書士事務所は委任関係を解消しましたので、債権者から取立ての通知を直接受けるようになりました。

債務者は、飲食店ホールの仕事を長く続けており、他の職務経験が乏しかったこと、新型コロナウィルス禍で、仕事につけないこと、返済叶わないので、待ってくださいとお願いの電話をして、待ってもらっていたとのことです。

しかし、継続的に収入を得る仕事には容易につけませんでした。

2 生活保護受給後に、債権者からの連絡を受け、法テラスにて債務整理相談

債務者は、近所にすむ知人に、生活保護の制度を聞き、区役所に相談に行きました。

申請後、令和2年12月には受給決定が出ました。

生活保護を受給しながら、再就職活動をしていました。

生活保護受給後しばらくして、令和3年になって、債権者から通知がきました。

これをもって、福祉に相談したところ、法テラスで弁護士に相談し、債務整理せよと言われ、法テラス相談の予約を取り、弁護士の相談を受け、法テラスの扶助を受け、破産申立てをすることとなりました。

債務者が再就職が困難であるのは、債務者の持病である、心臓肥大の検査をしたところ、B型肝炎ウイルスのキャリアであることが判明しました。経過観察をしているそうですが、発症はしていないとのことでした。

しかし、コロナ禍が明けない時期においては、債務者が希望する飲食店ホールのスタッフの仕事はほとんどなく、再就職のめどは立ちませんでした。

3 再就職の途絶

令和5年12月、ようやく、大きな運輸会社の社員食堂の調理スタッフとして、2カ月間の期間限定で就職することができましたが、契約更新されず、やはり、退職を余儀なくされました。

2月以降に、区役所にあるジョブストップで支援員に相談するなど求職活動をしていましたが、なかなか再就職先が見つかりませんでした。

また、令和3年2月に硬膜下血腫で救急搬送され、病院で緊急手術を受けていますので、その後の体調も良好とはいえません。

債務者は、体調を見ながら、就職活動を続けている、就労意欲にとんだ方です。

しかし、やはり、申立直前にも自宅で倒れました。頭痛はありましたが、安静にしていたとのことです。

交渉・調停・訴訟などの経過

まさに、本依頼者は、新型コロナウィルス禍における生活困窮と、債務者の病状という状況がありました。

申立書類が整い後、速やかに申立をしました。

本事例の結末

依頼者は、申立て後も体調すぐれず、申立直前にもご自宅で倒れるなど、硬膜下血腫という大病の影響は免れておりません。

負債の増大の原因には浪費やギャンブルもなく、生活保護費を堅実に用いていることが家計簿からもうかがわれました。

裁判所に申立てをしましたところ、追加指示もほとんどなく、スムーズに破産手続開始決定、同時杯決定がなされ、免責についての意見も当然出ませんでしたので、免責許可も速やかに出ました。

本事例に学ぶこと

本債務者は、生活保護受給者の方ですが、就労意欲に富んでおり、負債総額も過大ではないことから、仕事が決まって、安定的な収入を得たら、個人再生も視野に入れておりました。

しかし、新型コロナウィルスが感染法上の5類に分類され、行動制限も緩和されたとはいえ、依頼者のように体調不良を抱えた方が、フルタイム就労し、相当の収入を得るというはかなり厳しいようでした。

生活保護申請時に、負債がある場合には申告し、その場で、法テラスでの債務整理相談の予約を取り、自己破産の手続きをとることになるのが一般です。

依頼者は、債権者からの取立てがしばらくなかったことから安心し、それを生活保護申請の際に失念していたようでした。

通知を受け、すぐに福祉の担当者に相談したのは賢明でした。

その後、法テラスから援助の決定を受け、自己破産申立に至り、めでたく免責許可となったものです。

弁護士 榎本 誉