こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
大学に進学する際、奨学金を借りられた方も多いのではないでしょうか。
また、最近では、奨学金を返さないという運動が盛んにニュースでも取り上げられています。
ただ、奨学金も借金にあたりますので、返済しなければならない性質のものですが、学生を卒業した後、生活状況により奨学金を返せない場合には、自己破産を検討する必要があります。
自己破産を行うためには、いくつかの要件がありますが、通常、奨学金による自己破産では要件を満たすケースが多いといえるでしょう。
そこで、この記事では、奨学金の返済を理由として自己破産が可能か、自己破産をすると保証人に影響があるのか、および、自己破産以外の手段があるのかについて、わかりやすく解説していきます。
自己破産が認められるための条件とは
自己破産とは、破産者の収入や財産が不足し、借金の返済が出来なくなってしまった場合に、裁判所へ申し立てを行い、法律上の支払い義務を免除してもらうという手続になります。
ここで、自己破産が認められるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
① 家計の状況からして、借金を返済できない状況にあること(「支払不能」であること)
② 借金をした理由がギャンブルなどの「免責不許可事由」にあたらないこと
③ 自己破産が認められない債権(「非免責債権」といいます)ではないこと
① 「支払不能」であること
自己破産をするためには、借金を返済することができない状況にある(「支払不能」状態である)必要があります。
「支払不能」とは、借金をしている人(債務者)の収入や財産が不足して返済能力を欠くために、弁済期にある借金(債務)を一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます。
債務者が「支払不能」状態であるかどうかは、借金の総額や月々の返済額、収支状況や借金に至った経緯などにより判断されます。
② 「免責不許可事由」にあたらないこと
「免責不許可事由」とは、裁判所が原則として免責(借金を帳消しにすること)を認めないと法律が規定する事情をいいます。
「免責不許可事由」には、例えば、浪費やギャンブルなどがあります。
奨学金は、進学のために借り入れたものであって、「免責不許可事由」にはあたりません。
なお、仮に「免責不許可事由」にあたる事情があったとしても、裁判所が総合的な事情を考慮して(裁量により)免責を認めるケースもあります。
③ 借金が「非免責債権」ではないこと
「非免責債権」とは、自己破産によっても、免責(帳消し)にならないものをいいます。
例えば、税金などの公租公課や、悪意を持って加えた不法行為に対する損害賠償金、養育費などが挙げられます。
もっとも、奨学金は、「非免責債権」にはあたりませんので、上記の要件を満たせば、自己破産は可能です。
自己破産をすると保証人にも影響があるのか
奨学金を申し込む際には、親族や知り合いに頼んで、保証人や連帯保証人を立てることがあると思います。
もし自己破産をしたら、保証人や連帯保証人に迷惑がかかるのではないかと心配される方も多いのではないかと思います。
この点、自己破産によって免責(借金の帳消し)を受けられるのは、申立てを行った債務者本人だけです。
したがって、奨学金を借りた本人(主たる債務者)が自己破産をした場合でも、保証人や連帯保証人の責任まで帳消しになるわけではないため、債権者は、保証人や連帯保証人に対して、返済を求めることが可能です。
保証人と連帯保証人の違いは?
保証人と連帯保証人を同じような立場であると考える人も多いかと思います。
しかしながら、両者には何点か違いがあり、一番大きな違いを簡単にいうと、連帯保証人は主たる債務者本人と同じ立場に置かれるということです。
すなわち、主たる債務者が返済できない場合には、債権者は、連帯保証人に対して全額の支払いを請求することができるということです。
他方で、保証人は他の保証人が要る場合には、保証人の数で割った金額を返済するだけで足ります。例えば、保証人1人と連帯保証人1人がいる場合、保証人は、保証人の数で割った2分の1だけ返済をすればよいということになります。
過去の裁判例には、半額しか返還しなくていいはずの保証人に対して、債権者である日本学生支援機構が全額を請求して保証人が全額を返済してしまったため、保証人が過払い分の返還を求めたという事例もあり、この裁判では保証人の請求が認められています。
連帯保証人も自己破産?
上記のとおり、連帯保証人は、債務者本人と同じ立場に置かれますので、本人が自己破産した場合、連帯保証人は、債権者から債務全額の返済を求められることになります。
奨学金を借りる際には、親が連帯保証人となることが多いと思いますが、子が自己破産した場合、親が奨学金全額の返済義務を負うことになります。
この場合、親も奨学金を返済する能力がない場合には、親も自己破産をしなければならないことになります。
実際、親が奨学金の返還義務を負った場合、親も自己破産するケースは多くあります(いわゆる「自己破産の連鎖」)。
もっとも、自己破産は、世間一般に思われるような恐ろしい手続ではなく、法律に則った適式な手続です。過去には自己破産により一家心中をしたというような悲惨な事件もありましたが、自己破産について、弁護士からメリットやデメリットについてしっかりと説明を受ければ、自己破産後の明るい将来に目を向けることができると思います。
自己破産以外の方法はある?
自己破産をする前には、奨学金が支払えないときに使える救済制度を確認することも大切です。
救済制度としては、以下の3つがあり、それぞれに認められるための要件があります。
①減額返還制度
②返還期限猶予制度
③返還免除制度
①減額返還制度
これが認められる要件としては、返還を延滞しておらず、かつ、年収が325万円以下であることです。
この制度を利用した場合には、返還期間を延長することで月々の返還額を減らすことが可能です。
②返還期限猶予制度
これが認められる要件としては、年収が300万円以下であることです。
この制度を利用すれば、返還期限に猶予期間を設けることが可能です。
1回の申請で1年間猶予され、通算10年まで返還期限を延長することができます。
③返還免除制度
これが利用できるケースは、奨学金受給者本人が死亡した場合や、精神・身体障がいによって返還が出来ない場合です。
この場合には、未返還額の一部または全部が免除されることになります。
個人再生の手続きとは?
債務整理の方法には、自己破産と並び、個人再生という手続もあります。
個人再生の手続きは、簡単に言うと、借金を5分の1~10分の1程度に圧縮して、原則3年間で返済していくというものです。
自己破産の場合とは違い、住宅ローン特則という制度が利用できれば、家を持ち続けることができるというメリットなどがあります。
ただし、奨学金の場合には、圧縮した後の残額は、連帯保証人・保証人に一括請求されてしまうので注意が必要です。
まとめ
奨学金による自己破産が可能かという点を解説していきました。
大学進学のために奨学金を借りる人は多いと思いますが、卒業後、返済することが難しくなった場合には、自己破産を検討されてみてはいかがでしょうか。
自己破産を行うメリット・デメリットを十分に検討し、将来の生活を立て直す姿勢が大切だといえます。
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