破産手続が開始されると、債務者(破産者)が保有していた財産が換価処分され、債権者への配当の原資とされます。そのため、保有していた自動車も手放さざるを得なくなります。しかし、例外的に自己破産しても自動車を手元に残すことができる場合があります。
原則
破産手続開始後、破産管財人が就かないケース(同時廃止)もありますが、説明の便宜上、裁判所によって破産管財人が選任されるケースを前提とします。
分割払で自動車を購入した場合の引き揚げ
自動車を割賦販売(自動車ローン)で購入している場合、たいていは、ディーラーや信販会社が所有者となっています(所有権留保といいます)。車検証を見れば、「所有者欄」に、これらの会社名が記載されていることが分かります。
弁護士に破産手続きの依頼をすると、支払いが不能であることの書面を債権者に発送します。そうすると、債権者であるディーラーや信販会社は、当該残債のある自動車の引揚げに来ます。これは破産手続開始によるものというよりも、もはやローンを支払えない(偏頗弁済という不公平な弁済をできない)ことによるものです。
破産管財人による処分
破産手続が開始されると、債務者(破産者)が保有していた財産の管理処分権は、裁判所から選任される破産管財人に移転します。そして、破産管財人は、破産者の財産を換価処分し、これを債権者への配当の原資とします。
自己破産をするにもかかわらず自動車を残すことができる例外
自動車の価値が低い場合
自動車の場合には、その評価額おおむね20万円未満の場合には、破産管財人が、破産財団(債権者への配当の原資)から除外することが見受けられます。この場合には、破産手続開始により自動車の管理処分権が破産管財人に移転しているため、破産管財人が自動車を放棄して破産者に譲り渡すという手続をとることになります。
新車として登録されてから、普通自動車が6年、軽自動車が4年経過していると、破産管財人は当該自動車を放棄し、そのまま債務者(破産者)は自動車を持ち続けることができる場合あります。会計学上、上記の年数が耐用年数とされており、これを過ぎると減価償却が終わり、0円との評価になることによるものです。もっとも、車種によっては、査定を取れば大きな金額となる場合があり、耐用年数をそのまま無条件に当てにするわけにもいきません。
自由財産の拡張
破産手続が開始されても、全財産を失うわけではありません。99万円相当部分までは手元に残すことができます。この99万円という金額は、月額33万円の収入の3か月分程度を残せば生活できるだろうとの考えのもと設定された金額と考えられています。
そして、自動車の場合には、その評価額おおむね20万円を超える場合には、自由財産拡張の申立てを行うことになります。そして、当該自動車がないと、生活が成り立たない(通勤手段である、家族の通院に必要不可欠であるなど)という事情があれば、自由財産とすることを認めてもらえる可能性があります。
親族等の第三者に残債を支払ってもらう
自由財産の拡張が期待できる場合であっても、割賦払の残債が残っていれば、金融機関に引き揚げられてしまいます。他方、破産手続を行うにあたっては、特定の債権者へ借入金の返済をすることは偏波弁済として許されません。債権者の皆様に平等に貸し倒れの負担を負ってもらうのにもかかわらず、特定の債権者のみを優遇することは、許されないのです。
そこで、親族等の第三者に代わりに支払ってもらうことで、引き揚げを阻止することが期待できます。もっとも、当該自動車の価値が高額の場合、結局は破産管財人が放棄せずに換価することになりますので、親族に迷惑をかけないためにも、自動車の価値を事前に調べておくことが必要になります。
やってはいけない方法
家族名義に名義変更する
破産手続によって財産の処分権限を失うのはあくまで破産者の財産に限ります。そのため、破産者ではない家族等の名義の財産については、換価処分の対象とはなりません。
そこで、これを利用し、家族名義に名義変更をしてしまうことが考えられます。しかし、これは財産隠しにあたり、場合によっては破産手続開始後に免責許可が得られないという悲劇的結末を迎えるリスクもあります。
残債の支払い
自動車ローン会社にローンを支払えば、所有権留保の付いた自動車を引き揚げられないで済みます。しかし、先にも説明したとおり、債権者に平等に不利益を負ってもらう手続のため、抜け駆け的弁済は偏頗弁済となり、場合によっては破産手続開始後に免責許可が得られないという悲劇的結末を迎えるリスクもあります。
自動車があることや、自動車のローンがあることを隠す
虚偽の申告をすることは、免責許可が得られないどころか、詐欺破産罪という罪に問われる可能性があるため、絶対にやってはいけません。隠そうとしても、保険料の支払い、自動車税の支払い等、破産管財人に転送される郵便物から判明する可能性があります。
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