かつて担当した債務者の方で、債権者の中に犯罪行為による被害者がいて、その被害者に損害賠償金を分割払いで支払っている、というケースがありました。
債務者(Aさん)は、被害者(Bさん)を騙して金品を受け取るという犯罪を犯し、Bさんとの間で、「被害弁償金として総額200万円を支払う。支払方法は、月5万円ずつの分割払いとする」旨の示談書を交わしていたのです。
その後、Aさんは、30万円を支払った段階で、他にあった借金の返済が難しくなり、破産をすることにしたのです。
BさんのAさんに対する損害賠償請求権は、悪意で他人に加えた不法行為(Aさんの犯罪行為)に基づく損害賠償請求権であり、破産しても免責されずに残る債権です(非免責債権)。
この点は、Aさん、Bさんともに理解されていました。
そのうえで、受任通知を受け取ったBさんは、「自分は犯罪の被害者で特別なのだから、破産手続をしている間も、約束どおり毎月5万円の支払いは続けて欲しい」と主張してきたのです。
これは正しいのでしょうか?
実は、非免責債権だからといって、破産手続中も随時弁済が許されるかというとそうではなく、弁護士介入後も支払いを続けてしまうと、破産法上禁止されている「偏頗弁済」となってしまいます。
そのため、Bさんには申し訳ないのですが、Aさんの破産手続が終了するまで毎月の支払いは停止せざるを得ないのです。
このように、Bさんに対する支払いは破産手続終了までいったん停止しますが、手続終了後は、従前の合意にかかわらず、速やかに残額(このケースでは170万円)を一括弁済しなければならなくなります。
その時点での一括弁済が難しいということであれば、Aさんは再度Bさんと交渉して、新たな分割払いの合意を取り付ける必要があるのです。