たった1社の債権者でも、破産手続が必要な場合

借金整理のご相談を受ける時、1社でも破産出来ますか?という質問を受けることがあります。

結論からいいますと、できる場合もありますし、できない場合もあります。

破産法は、破産者が「支払不能」になるときは、破産手続を開始すると定めているため、債権者1社でも「支払不能」であれば破産手続きを始めることはできます。
(「支払不能」については、また改めてご説明します。)

では、1社でも破産手続をする必要がある場合は、どのような場合でしょうか。

ある具体例をもとに考えてみたいと思います。

ある女性は婚姻中、夫名義で戸建てを購入し、夫名義で住宅ローンも組みました。

このとき、この女性は夫の住宅ローンの連帯債務者となりましたが、数年後、夫婦は離婚することになり、住宅ローンは夫が支払い続けるという約束で、この女性は家を出ました。

しかしその後、この女性のもとには住宅ローンの支払いを求める督促状が届くようになり、そのうちに競売申立までされました。

この女性としては、離婚しているとはいえ、連帯債務者である以上、支払義務は仕方のないことだとは思いましたが、住宅ローンの残高は2,000万円以上もあり、到底返していける金額ではありませんでした。

この女性が負っている債務はこの住宅ローン連帯債務分のたった1社のみでしたが、たった1社なのに破産手続をしていいのかどうか、また生活費などの借入ではないのに破産をしていいのかどうか、そして自分が今後の備えとして時間をかけて貯め続けた現金60万円がどうなってしまうのか、気がかりでした。

そこでこの女性は決意し、破産手続をとることにしました。

この女性は、破産手続に於いて弁護士とともに、今後の備えとしての現金保持の重要性や債務の原因も自身の浪費などではないことなどを裁判所に報告したところ、管財事件にはならず、免責決定も得ることができました。

すなわち、現金60万円を失うことなく、連帯債務を負っていた住宅ローンの免責の決定を得ることができたのです。

この女性のように、適切な手続を利用することで、ご自身の財産を自由財産として保持した上で、負債については免責を得ることができる場合もあります。

もし、弁護士に相談してなかったら?
あるいは、この女性の実情をきちんと聞き取って破産手続を行うことができない弁護士だったら?

60万円は差押えられたり、管財手続になって60万円を保持できなかったかもしれません。

経済的再生のために、たった1社の債権者しかない場合でも、破産手続をとる必要がある場合があります。

その場合には、電話だけで打ち合わせを済ます弁護士ではなく、きちんと打合せをし、依頼者の実情を聞き取り、裁判所に報告できる弁護士を選ぶことが必要です。